おひゃくしょうさんになろう

岡山県山間部にて、農家の嫁が日々を語る。

土鍋&備長炭のご飯

さて、炊飯器が壊れちゃったのです。

 

どーーーーしても、蓋と本体の窯との間に隙間ができちゃうみたいで蓋がぴっちり閉まらんのです。

保温にしておいているとご飯の表面がカピカピになってしまうのです。

 

新しい炊飯器買わないとな〜、と、なるところですが。

 

「よし、これを機に、前からやってみたかった土鍋でご飯を炊いてみよう!」

 

となったのが2020年、今年1月のお話。

土鍋ご飯ならカンボジアで一人暮らしをしていた時もやっていたので抵抗なく取り入れられそうだなと思っていました。

それでも最初は(うまく炊けるのかな)とか、(実際は炊飯器のほうが楽だったりしてなー)とかいろいろ考えることはありましたがなんのなんの

最近はさらにパワーアップして、炊くときに備長炭を一緒に入れたりもしています。

 

そこで土鍋ごはんを2ヶ月使ってみての感想をお話したいと思います。

 

 

美味い、早い、楽!

もうこの3つに尽きるのではないでしょうか。

私が体感した、土鍋ごはんのいいところを五感をもって語ってみます。

 

最初は静かに、窯の中でことことと、火が通ってゆきます。

すると次第に土鍋から勢いよく湯気が吹き出し始め、台所中に芳しく、炊きあがりを知らせます。

火を止めて蒸らしたあと、あなたはゆっくりと土鍋の蓋を持ち上げます。

すると蓋を開けたと同時に、ふわ〜!っと溢れ出る湯気と香り。

それはまるで「炊けたぞー!」という、土鍋からの香りの挨拶。

鼻腔と食欲をくすぐって、なんともたまらない気持ちにさせられます。

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その湯気の向こうには、なにかぴかぴか、きらきら輝くものがあります。そう、お米たち。

ひと粒ひと粒が立ち上がってこちらを見つめています。

全員ピシーーーっと起立した姿はシャキーンと、いや、シャリィィィィィーン!!みたいな勢い。米だけに。

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お茶碗にご飯をよそい、手を合わせた後、香りと艶っぽさを楽しみながらぱくり。

 

もうここまで語ると味の説明は蛇足のような気もしてきます。

 

もうおかずなんていらない…

米の味だけで箸が止まらなくなる…

 

噛めば噛むほど上品な甘みが口の中に広がること、唾液という池に放り込まれた米から水紋のように旨味がひろがってゆく…。

なぜこんなに味わい深まるのだろうか…!

 

 

『そう…美味しいでしょう………』

 

はっ…!

 

い、今、なにか聞こえた?!


『これが……ぼくたちの本来の味なのさ…………』

 

『もっと………、ほおばって………たくさん味わってごらん………』

 

そう、きっと、お茶碗の中から語りかけるお米達のささやき声を耳にすることでしょう。

 

同じく「土鍋ごはん最高!」と叫ぶ、自分の心と胃の声も聞こえる…。

そして気が付けばおかわりをしている。

そんな魅力いっぱいの世界へようこそ、土鍋ごはんです。

 

土鍋はたくさんありすぎて、どれが良いのやら正直わからなかったんですけど、まずはお試し土鍋ご飯デビューしたかったので高級品には走らず、楽天で「みすずのごはん鍋」(七合炊き)というのを買ってみました。

 

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サイズも一番大きいのにして正解でした。大満足しております。

 

ちなみに、おにぎりにしても違いがでてきます。

もちろん炊飯器ご飯でも美味しいおにぎりが出来るけど、今までのおにぎりの概念を覆してくる旨さのおにぎりが出来ます。

それぞれお米の粒がハッキリしているから、米同士ががカチッとくっつきあって、ほどよく水分のとんだ逸品「最強米粒集団☆おにぎり」になります。

 

具や味付けをしなくても塩だけで充分おいしいけど、こんな感じ。

 

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コメ王子さんが丹精込めて美味しいお米を作ってくれますからね。

美味しく食べる方法をもっと知りたいなと、いろいろ研究しているのでした。

三人の日【フキノトウ・うどな】

春と日いう字は「三人の日」と書きます。

 

という歌が昔の歌にあった、なんていうのをラジオで聞きました。

本来「春」という字の由来はまた別にあるそうですが、とりあえずほんわかして和んできたねっていうことなんだと思います。

 

さてさて今回は三人で山菜を採りに行った日のお話です。

 

 私と、コメ王子さんには、中井さんというお師匠がいます。

ほぼほぼ自給自足できるキングダムを山の中に作っておられる、むちゃくちゃすごいおじいちゃんなのです。

 

中井さん「農機具あまってるから、なんか好きなの選びに来なよ」

 

なんていう言葉をサラッと言うのです。

 

よく田舎の家やおじいちゃんおばあちゃんちにある農機具とかね、私は今まで、言い方悪いですけど

 

(泥まみれのイメージしかないなー)

 

というのが正直なところなんですけども、あれっておひとつ10万~〇千万もするらしいんですよ。なかには家が建つ値段のものもあるんですよ。

 

なんならフェラーリとかベンツと同額という、トヨタやクボタのトラクター。

 

の、農機具って高級品じゃないか!!

 

 

中井さん「農機具あまってるから、なんか好きなの選びに来なよ」

 

もうこのお言葉の凄さがわかりますね!!

さっそくお山に遊びに行かせてもらいました!!

 

そして2019年、完全山だったところを1人で開墾しまくって生姜畑にしたという土地を見させてもらいました。

 

《Before》

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《After》

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Beforeがもうちょっと山すぎる写真だったらよかったんだけど、まあなんともすごいことをするお方です。

 

野生の山というか、ジャングルな山を農地にするのってめちゃくちゃ大変、かつ労力がかかることだそうです。(コメ王子曰く)

 

まずは草刈、ビッキビキな地中の根っこ除去、土を耕すなどなど…

その面積50アールを手掛けられたそうです。

 

よくね~、コメ王子さんがおじいちゃんたちと話してて「うちは1反じゃ~」とか「家の裏に4せほどやっとる~」とか聞くんですけどいまいちピンとこんのですよね。

 

と思って表にしてみたのがこちら↓ 

 

㌃/㌶  テニスコート 農業言葉
1ha 6666枚 3333㎡ 38枚 町(ちょう)
10a 666枚 333㎡ 3.8枚 反(たん)
1a 66枚 33㎡ 0.38枚 畝(せ)

 

中井さん畳666枚分を整備されたのですか。1人で。師匠です。

 

そして中井さんの銀杏畑のちかくに群生しているフキノトウを摘ませていただきました。じつは去年も同じところでもりもり摘ませていただいたのでした。

 

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今年は時期が少し遅かったみたいなので、もうつぼみが開いて花が咲いているものもありました。これはこれできれいですね。

 

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スマホの待ち受け画にしています。

 

 

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ほかにもビワの葉、うどなを採らせてもらいました。

 

その日の夜はさっそく天ぷらと、和え物にして美味しくいただきます!

中井さん!それから日本の自然!山の恵みをありがとう!!

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うどなを天ぷらにするときは、素揚げよりも衣につけたほうがさっくりしてて◎

アクが強いので、和え物にするときは、ゆがいてほうれん草と一緒に食べれば美味しいと教えてもらいました。

冬は腎の働きが低下する季節でもあるので、それをサポートする黒色の食材を取るべく、すりおろした黒ゴマをばさーー!っとかけておきました。

 

フキノトウはだいぶ大きくなっていたので、葉の部分をかき揚げにして、つぼみはゆがいて刻んで、お味噌と混ぜてフキノトウ味噌をこしらえました。

 

かき揚げはふわあっと、お味噌はじわりと、口の中に苦みが広がります。

どちらもごはんと相性抜群ですね~。この苦みが、冬にたまった老廃物をデトックスしてくれるんですね。

 

春は代謝が上がって痩せやすい時期らしいので、草木の芽吹く姿を見習って、私もしっかり働こー!!

幻の山芋!ちょっと○ッチな特産品

さて、「銀沫」と書いて「ぎんしぶき」と読むのだそうです。

 

岡山県真庭市にある勝山町並み保存地区に、友人と遊びに行って参りました!

 

岡山の日本酒「御前酒」で有名な辻本酒造、ステンドガラス、のれんのかかった古い家が立ち並び、と〜ても素敵な地区でした。

 

 さらに変わったものを探してみたところ、「え、2本でこの価格?!」というお値段びっくりな山芋に遭遇。そう、それが「銀沫」との出会いでした。

 

 そののち地元の人気飲食店で銀沫をつかった「とろろご飯」を食べたところ、案の定「うんまぁ!!!!」ってなったのでお土産に買って帰りました。

 

今回はその銀沫実食の感想、それからちょっと○ッチな特徴を3つお伝えしたいと思います。

 

 

銀沫ってどんな芋?

ネットやホームページを見てみますと「幻のやまいも」と言われているそうです。

 

なんとなく山芋とか里芋とかって、ひょろっと長かったり、こんまりしていたり、なんとなくフェミニンな感じがするじゃないですか。

 

しかし銀沫さんは手にとってみたときのずっしり感、身がつまってるみっちり感、ゴツゴツした雰囲気は今まで出会った山芋にはない雄々しさといいますか、「土の中で暴れまわって大きくなったぜ!!」を全面に出しているような、そんな感じなのです。

 

という私の説明では物足りないと思いますので、どんな山芋かというのを、以下JAまにわさんのホームページから引用させて頂きます。

やまのいも「銀沫」は全国的にも珍しい品種で、試行錯誤を重ねながら、生産者一同が栽培方法を確立して育てあげた、幻のやまのいもです。

自然薯にも勝るとも劣らない独特の風味と強い粘り。

アクが少ないため、すりおろしても変色しにくく、真っ白なつきたてのもちのような食感です。

口にふくめば、濃厚な味わいが広がります。

www.ja-maniwa.or.jp

 

ね〜、なんとも美味しそうなのが伝わってきますね。

 

山芋といえば自然薯も有名ですが、岡山の山芋といえばまず検索条件にあがるのはこの銀沫。

岡山のニッチな市場をついた山芋さんといえるでしょう。

 

さて、帰宅してからさっそく調理!

 

いつも腹ペコになって帰宅するコメ王子さんのために、そしてあのお店で食べたような味を再現するべく、生唾ゴクリで台所へ。

 

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袋から取り出してみると、あらためて荒々しさが増しますね。

 

さぁすりおろすぞ、といってもまずは皮むき。

ご覧の通り、私の選んだ銀沫さんは結構表面がぼこぼこしていたので、ピーラーでシャーというわけにもいかず、まあそもそもピーラーがないということで包丁でむきむきしていきます。

 

それでも思いの外するする剥けました。

さらに意外なことは、だいたい芋とかりんごとかって剥いた断面からすぐ変色していきますが、さすが銀沫さん、まったく動じないというか、色が変わりません。

自分を曲げないというか、男前です。

 

ツルツルになったあとは、いよいよすりすりしていきます!

うちにはすり鉢もないので、大根おろしをおろすやつでぞりぞりしていきます!

 

まあ、やはり、といいますか、うわぁ……!!といいますか、すりおろしたらあぁいう状態になるじゃないですか、やまいもって。

山芋自体、滋養強壮、血流促進、精力増大、つまるところ今夜期待!みたいな!

 

そんな食材とのことですし、そもそもこう、「ぎんしぶき」っていう名前自体、なにかがほとばしるような、勢いのある感じじゃないですか。

最初その名前を目にしたときから、そういうところから銀沫って名前がついたのかなって私は思ってしまいました。想像力の豊かさがなせるわざかもしれませんが、これが2つ目のエッチなところ。

ちなみにモザイクをかけてみた画像がこちら。

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山芋は、ご飯にかけてもモザイクはかけない方がいい、ということが良く分かりましたね。

 

ちなみに正しい名前の由来については再びJAまにわさんサイトの引用です。

「銀沫」の由来は「同地区の名瀑、神庭の滝の銀白に輝く滝のしぶきが畑にふりそそぎ銀沫になった」とのイメージから命名され、平成17年に商標登録しました。

www.ja-maniwa.or.jp

 

 

さらにすごいのはその粘り気!!

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もうね、箸を勢いよく引っ張り上げるとそのままお皿が持ち上がってしまう力強さ!!

 

ばいぃぃぃぃぃぃん!!ずどどぉぉぉぉぉん!!なんていう効果音がつきそう!!

 

出汁を入れてもなかなか薄まりません。ひたすら濃い。さすが銀沫殿!

 

だいぶどろどろの、ねっばねばの、もっっったりとしているので、よく出汁で引き伸ばしてあげてください。

 

たぶん上にあげた銀沫1個まるまる使うと5〜6人前くらいいけるんじゃないでしょうか。

 

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今回は白米でしたが、麦ごはんだと完璧でしたね!

 

最近ちょろっとだけ独学しているのですが、薬膳の観点からみますと、とろろも麦ごはんも脾臓を元気にする働きがあるんだそうです。

だから一緒に食べることで、さらにその効果を発揮させるんだとか。

食物繊維も豊富だし、ゆっくり消化吸収されるということも含め、「麦飯ととろろ」は理にかなった食べ合わせなのですね。昔の人の食の知恵は凄いです。

 

ちなみに地元のスーパーの地元名産品コーナーにも銀沫さんがいましたが、勝山の直売店で買うよりもややお値段が上がっていました。

 

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2本で1480円。

 

ふむ、1本あたり600〜700円はするようです。

ということでリッチな商品って気がします。

 

だけど栄養価の高さとあの美味しさを思うと、お値段以上なことは間違いなしなので、ぜひ食べていただきたいです!!

 

 

最後に

びっくりなのは皮むきからすりおろし、食後に至っても手や口周りがまったく痒くならなかったことです。(※個人差はあるかもしれません)

 

銀沫さんの見た目のゴツさとは反対に、「あら、優しいところもあるじゃない」という、ジェントルマンな食材です。

ぜひ皆様にも一度は食べてほしい、岡山の名産の山芋でございます。

 

以上、勝山で有名な銀沫さんを美味しくいただきました!

おから味噌を作る

2019年もそろそろ終わりですね。

 

12月も末の寒さになると、朝の台所の空気もひゅんと冷たい。

だけど冬は特に、その乾いた香りが好きです。

 

 

さて、そんな台所ですが、そろそろお味噌が尽きかけていました。

 

去年、相方のコメ王子さんが仕込んでくれた手作りお味噌がとてもとても美味しかったので、いっちょ自分でも味噌を仕込んでみたいなと思っていたところ…

 

自家製味噌づくりのワークショップが開催されます、とフェイスブックの通知が!

なんとタイムリー!

 

しかしちょっと変わったお味噌なのです。

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原料はなんと「おから」。

 

その名の通りおからを原料とした味噌なのです。

お豆腐を作るときにできるおからを生かすという、お豆腐屋さんならではの仕掛けですね。

 

さてどんなふうに作るんでしょう?

わくわくしながら参加してきました!

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カフェ営業もしている、地元のお豆腐屋さん「早瀬豆腐」。

 

レシピは公開できないのですが、用意するものはたったの4つ。

 

新鮮なおから、塩、生麹、豆乳(濃いめ)

 

材料はこれだけ!

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これらをボールにいれて、よく混ぜ合わせて、最後は容器につめるだけ。あら簡単!

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おからって、卯の花とかお味噌汁に入れるくらいしか馴染みがありませんでしたがこんな使用方法もあるんですね。

 

 ちなみにもう1つ必要なものは婚期!

じゃなかった「根気」!!

 

仕込みを完成させるのは30分くらいでできますが、熟成させて食べられるようになるまで最低1年かかるとのこと。

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さらにさらに2年、3年と年月をかければかけるほど発酵が進み、味わいと色味も深まってゆくのだそうです。

 

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左から1年、2年、3年もののおから味噌。

日が浅いものほど甘みがあり、年月が経つものはしょっぱさに深みがある感じでした。

 

しかし我が家の味噌は底を尽きかけているのです。

はよ明日にでも仕上がらんのか、という気持ちで正直心の中はバチバチ

 

その火花をおさえるためにちょっとひと工夫。

 

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おから味噌の入れ物に落書き!いやし!ほっこし!

 

途中、

 

(あれ?味噌の噌ってどう書くんだ?)

 

ということで味そ丸になった。

この中途半端さがかわいい(*´ω`*)

 

ときになでなでしてあげながら、おいし〜く仕上がるのを楽しみに待ってあげることにします。

 

ちなみに早瀬豆腐さんはおから1袋を60円で販売しているとのこと。

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十分お求めやすい価格ですが、店頭商品をお買い上げの方にはこちらのおからを1袋無料でプレゼントしているそうです。

  

簡単に作れたので、2年、3年後用にもっと仕込もうかなと考えております!

100人の仲間

お百姓さん、というとどんなイメージがあるでしょう。

田んぼにいる人?
野菜を作っている人?
田舎の古民家に住んでそうな人?


おそらくこれから学んでゆく、なってゆく姿なんだろうな、と思っています。

私は1991年12月生まれ。
このあいだ28歳になりました。

これからの人生をどう生きたいか。
生きるというのはどういうことなのか。

ふと考えたとき、私の相方は「私は百姓になる」と言うのです。


そうか、百姓になるのか。
では私もお供しますかな。

イメージよりも、驚きよりも、私の人生の方向性はスッと定まりました。


岡山県津山市加茂町にて、これから100人の仲間をめざす物語を作ってゆきます。

なりたいものがあるんだ。

「大人になったら何になりたい?」

人間誰しも、

大人になるまでに一度は考えたこと、もしくは人から尋ねられた問いでしょう。

何になりたい?というこの問いに答えられたことはない。
まったくなにも出てこなかった。

「看護師!」「消防士!」「ケーキ屋さん!」

とかいろいろ周りの皆は答えていたけど、私はいつもぼや〜んとしていた。

しいてあげるならば、大学生になってからひねり出てきたのが「翻訳家!」「ゲストハウスのオーナー!」「デザイナー!」である。

ちなみにこれらは形こそ変わり変わってはいるけれど、どれも達成した夢でもあります。


が、しかし。

つい最近になってようやく見えつつあるものがあります。


たとえば自分で植物を育てること。

たとえば自然の力をかりて新しい価値の物を作り出すこと。

たとえば1日の始まりと終わりに、心の拠り所としてちょっと神聖な習慣を持つこと。

ヨガとか座禅とか瞑想とか。



そう、


私は、


魔法使いになりたかった。ほんとに!(笑)


月の満ち欠けを見つめたり、草木や花の力でお茶や薬を作ったり。
目に見えるものや見えないもの、そんな魔法みたいなことを勉強して、試してみて、うまくいった!ってなるのが非常に面白い。


損得を何も考えずに「明日死んじゃっても悔いがない!」って生きるすべを探す、なんていうのも、ただジャンルがないだけで、立派な「なりたいもの」のひとつだとも思う。


なんだか話しながら仙人みたいね、なんて思えてきた。


最近はそんな、魔法使いみたいな、仙人みならいみたいな、かたちはないけど、ゆるっとした理想をもって、探求しながら生きている。

そんな、なりたい自分になれています。

ホテルのフロントから思うこと

「枯木の桜を見たいんです」

と言われて困ってしまった。
なぜなら私はその桜がまだ蕾で、開花していないのを2日前に知ってしまっていたからだ。

 

ホテルのフロントで働いていると東西南北、老若男女いろんな人と出会う。
ある人は観光に訪れたり、ある人は出張先の宿として来られたり。

またある人は全国の一本桜めぐりのためにその地を訪れたりする。
そして私は受付でその目的がスムーズに達成できるように、その場所への行き方や情報を調べたり、旅の案内をしたりする。

 

ずうずうしいかもしれないけども、年が何年も年上の白髪の女性にアドバイスをしようとした。
私も数日前、彼女が想像しているかもしれない華々しい景色を思い浮かべながらその場所まで行ったけど、まだ少し時期が早かったのか蕾が開いていなかったと。

「そこの桜は樹齢450年はあるし、たしかに迫力があります。だけどまだ桜は咲いていませんよ。」と。

ああそうなんですか、と彼女はさらっと聞き流して、手元に広げていた地図を畳んだ。
では地酒と美味しいお肉を食べに行ってきますと、ホテルを出ていかれた。


その夜、再び彼女はフロントを訪れて、もう一度その桜の場所までの行き方をおさらいした。
スマートフォンで駅と時間まで調べて、しっかりとメモを用意していた。

私もネットで調べた情報を確認して、彼女が無事に目的地まで行けるようご案内をした。

そこでまた私のいらぬおせっかいが出た。

 

「じつは私も2日前にその桜を見に行ったんですけど、まだ咲いてなかったんです」と、また言ってしまった。

きっと、彼女ががっかりしないようにと変な気遣いをしてしていたのかもしれない。
それか、自分が思う「ここがいい!」という場所に行かせようとしていたのかもしれない。

 

白髪の女性は、口をモゴモゴして、うーんと呟いて、「いいんです、ここまで来たので」と言った。

汽車に乗ることも、旅のお供の読み物を持ってきていることも、桜並木ではなくて古い一本桜だけを見たいことも。
にこにこしながら語った。

 

そうだ、私も、確かに桜は咲いていなかったけど、その近くに茂っていたつくしやふきのとう、少し冷たくて澄んだ空気や、山川を抜けて走る線路を見て「電車旅もいいなぁ」なんて思いはせて、いろんな感動があった。
きっと満開の桜を見てしまっていたら見逃していた感動だった。

 

人の望むものとか、なにに満足感を得られるのとかは分からない。
きっとこうだ!と自分の親切をおしつける事が、誰かにとってためになるわけでもないんだと、やんわり学んだような気がした。

ホテルのフロントにいる私は、お客様に旅の指示をするんじゃなくて、お客様の旅の支持をさせて頂く、という立場であることも。

 

きっと彼女は今日、わくわくした気持ちで駅に行って、いろんな景色と出会って発見をして、「あぁやっぱりここに来て良かった!」と思うんだろう。
私が2日前にそう感じたように。

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今日1日天気が良くありますように。

なんて、再びおせっかいなことをフロントから思うのでした。
それくらいならいいよね。